『新春厄払い大型闘牛大会』

日時:平成12年1月4日(火)午後1時30分開始
場所:東目手久闘牛場
主催:面縄中第32回卒業生

『天一』VS『荒鷲』
新春徳之島闘牛大会もいよいよ最終日を迎えた。朝から初春を思わせる陽気で、長袖1枚でも汗ばむほど。
特に注目を集めたのは、新春闘牛大会の“千秋楽”を飾るにふさわしい好一番といえる『サンオート荒鷲内行平』対『井上天一』の対戦である。
全島一を返納したとはいえ、『荒鷲』は沖縄を制して凱旋、徳之島でも無傷の10連勝という戦跡。
一方の『天一』は、『クジラ』・『モンスター上木』等を倒したとはいえ、トータル5連勝。
『荒鷲』は約1年3ヶ月振りの本場所ながらも、おおむね7対3で有利と見る声が多かった。
さて、この日の東目手久場所は荒れ気味であった。
目を負傷する牛・前足の付け根を突かれ、びっこを引きながら退場する牛・・・その一方脱糞・排尿の上に舌を出し、観客のため息がもれた瞬間から猛攻を開始、殊勲賞を獲得した牛。新春大会を総括したような様相を呈していた。
そして、いざ横綱戦!
先に入場したのは、『井上天一』であった。そのけたたましい遠吠えは、「早くこい!」とでも催促しているかのように自信ありげであった。
『荒鷲』は後からゆっくりと入場!その姿は『まさみ号』から全島一を奪い、『豊富建設号』を退けてタイトルを防衛した、まさに『荒鷲』そのもののように思えた。
互いにゆっくりと見合いながら角を突き合わせ対戦開始!
その瞬間『天一』の猛攻が始まった。互いに天角ながらも、『天一』の方は根元で横に広がっており、その角を巧みに使い攻めこむ!
だが、攻めこまれても『荒鷲』が不利とみる人は少なかったろう。
なぜなら、この牛は柵際まで押し込まれても押し返す・体を入れ替えて突き返す、そして相手が体力を消耗したと見るや、一歩・二歩と下がりその天角を直角に向けて相手のマキを貫く!
この技が出た瞬間に、『荒鷲』の勝利は決定的となるのである。。
しかし、『荒鷲』の悲運は対戦1分余りで起こった、目をえぐられたのである。その右目は真っ赤に染まり、潜血でにじんでいた。
それでも修羅場をくぐり抜けてきた闘牛魂は、戦列を離れることを許さないであろうか?うめき声一つ挙げずに闘いつづける『荒鷲』!
それどころか左目の眼光は「隙あらば!」と、伺っているかのように見えた。私は、目にこみ上げてくるものを振り払いながらシャッターを押し続けた。
果たして『天一』は、『荒鷲』との闘い方を誰かに教授されたのであろうか?その攻撃の手は緩むことなく、ますます激しくなっているかのようであった。
そして、時間は2分を経過。
『荒鷲』の右目が見えない事を察したかのように、右に右にと攻撃を仕掛け首を取る『天一』!
柵にそって必死に体を入れ替えようと下がる『荒鷲』!
今度は、下から何度となくすくい上げる『天一』!
次の瞬間、『荒鷲』の体が浮き上がり柵側に横転!
「勝負あり!!対戦時間:2分21秒、井上天一の勝利!」のアナウンスが響く。
「ワイド!」「ワイド!」の掛け声と共に太鼓・ラッパが鳴り響き、たくさんの人々が土俵になだれ込む。
“まさか!”とでも言いたげに引き上げる観客、激戦の余韻がさめやぬ表情の若者・・・
一方、痛々しくえぐられた『荒鷲』の右目は、徳之島闘牛会に“戦国時代”が訪れたことを暗示しているかのようだった。

観戦記