今年の“お盆闘牛大会”の序盤は残念な事故が相次ぎました。
8月14日の花形戦“東天荒虎号”が、対戦相手に右腹を突かれたことが原因で死亡。
8月15日の横綱戦“尚鉄筋号”が、対戦相手の返しの角で右目をえぐられ失明。
誰もが22日の大会が無事に終了することを祈る。

 8月22日の横綱戦は“里流通サービス号”対“闘昇龍あきら号”
 大会の殿(しんがり)である横綱戦に出場することは、相撲で言う結びの一番を飾るのと同じであり、闘牛を育てる牛主は誰でも夢見ることの一つ。
 さしずめこの日は、8月14日・8月15日と開催された“お盆闘牛大会”の締めくくりを飾る対戦、相撲で言えば“お盆闘牛大会”の千秋楽であり、栄えある場への出場となるはずでした。

 ところが、その場にいるはずだった“闘昇龍あきら号”の牛主の一人「島さん」は2日前にガンで急逝。それでも、本人の希望を叶えるために出場。
 本部席では遺影のそばにたたずみ、対戦見守る娘さんの姿がありました。
 娘さんは幼い頃から闘牛を散歩させるなど、闘牛好きの女の子として地元でも大変有名でした。内地に就職しても闘牛大会がある度に帰省。そんな子のため、父は娘の名をつけて闘牛を育てました。

 そして昨年1月2日の闘牛大会、伊藤観光ドーム(今回と同じ闘牛場)の横綱戦に出場!連勝中で前評判の高かった「島あかね号」。
 しかし、結果は勝つと信じて疑わなかった愛牛の敗北。
 落胆する娘を励まし、今大会に向けて“闘昇龍あきら号”を我が子のように育て上げたのは亡き父とその友人達でした。
 闘牛場ではいつも大声を張上げて応援していた元気っ娘も、今場所は本部席で静かに対戦を見守っていました。

 その思いが通じたかのように粘り強く戦う“闘昇龍あきら号”対戦相手“里流通サービス号”も奮闘しますが、一瞬の隙を突かれ敗走!
 その瞬間、会場は歓喜の声に包まれました。遺影を持って駆け寄るあかねさん、それに気付いた仲間たちは、彼女を牛の背中に乗せ皆で周りを取り囲み、“ワイド!ワイド!”の大合唱!手舞い・足舞い、指笛・太鼓・チヂンが会場全体に鳴り響きました。
“闘昇龍あきら号”も島さんの死を悟っていたのでしょう、彼女の目からこぼれ落ちる大粒の涙をその大きな背中で受け止めていました。

遺影を抱き締め号泣するあかねさんの姿に目頭が熱くなり、涙がこみ上げてきました。
未だ、感動覚めやらず。

観戦記