開始早々の攻防
5月5日午前9時30分。「全島大型闘牛大会」の幕開け! 「封切特番、龍道場、母間鰹、入場願います」のアナウンス。いざ、太鼓・ラッパを吹き鳴らし、ワイド・ワイドの掛け声と共に決戦場へ。 先に入場したのは「龍道場」、後から「母間鰹」、喜多川が綱を持ち静かに角を合わせる。 いざ、対戦開始!
対戦時間も5分を過ぎ、怒涛の攻めを凌いでいる母間鰹に余裕が見え始めて来た。 「この攻めに絶えつづけるのはきついが、一方からしか攻めてこない…」と、相手の弱点を見切ったかのように見えた。
体をくの字に曲げて凌ぐ母間鰹(左)
一気に攻め込む母間鰹(手前)
再び土俵中央まで持ち返すが、完全に母間鰹のペース。 ここを勝機とばかりに、母間鰹の角掛けからの腹取りが炸裂!追い討ちも決めると「龍道場」はそのまま敗走。 対戦タイム14分15秒「母間鰹」の勝利!
台風の中の草刈で難儀した事、ネーミングや鰹幟で笑われた事も、この勝利が全てを吹き飛ばしてくれた。 ワイドワイドの掛け声に包まれながら、愛牛を囲み揚々と闘牛場の外に出る。
ふと空を見上げると、悠々と「母間鰹」が泳いでいる。勝利の波を乗っているかのように…
皆とても言葉では表しきれない満足感に包まれ、深夜遅くまで宴会は続いた。
それでも、生きものである牛を飼い、勝負の世界で生きるからには完全な休息は無い。
翌日からはこれまで通りの日常が始まる。
定時に起き、勤務先に向う者。徳之島空港発の便で本土に戻る者。
この日から次の戦いへの準備も始まるのである。
【解説】徳之島の伝統文化である闘牛。 その歴史性故に、左綱・トベラなどの厄除け、日柄を見ての角研ぎ、大会前は針仕事をしない、髭を剃らない。そのような伝統や風習、縁起担ぎも時代と共に廃れて来ているのは否めません。 手間や費用、仕事への影響など、そうせざるを得ない面があるのも確かです。そのような中、20代から30代前半の青年たちが、今までにない縁起担ぎをした事に興味を持ち取材させて頂きました。 実際「鰹幟」が勝利を呼び込んだのか、「母間鰹」が相手の弱点を見極める事ができたのか、牛と話せる分けではないので何ともいえないのも確かです。それでも、勝利への執念と牛に対する愛情に深く感動し、この物語を書きました。 「闘牛にはドラマがある!」が私の持論であり、大会があるたびに様々なドラマがあります。これからも、この闘牛のドラマを伝えることができればと思っております。 (記:大和凡人)